傷に合った縫合とは?
当院ではケガをされた方や、ケガをされて縫合を受けた後に受診される方が多数いらっしゃいます。今回はケガの場合の縫合についてのお話です。
まず最初に、傷にはケガの仕方により様々な種類があります。日本形成外科学会のHPでは、切創(切りきず)、擦過傷(すりきず)、裂挫創(皮膚が裂けたきず)、刺創(刺しきず)、咬傷(咬みきず)に分けて分類していますが、分け方によってはもっと多くの種類に分けられます。
傷を縫合する際に必ず考慮しなくてはいけないのは、
①他の組織の損傷の有無 ②傷口の損傷・深さの程度 ③血流 ④感染 です。順に説明していきます。
① | 傷口を縫合する前に他の重要な組織に損傷があるかを確認することは重要です。例えば手指の場合、骨折の有無、手指の曲げ伸ばしは可能か(腱断裂の有無)、しびれの有無(神経損傷の有無)などです。縫合されてかなり時間が経ってから気づかれる場合があります。治療が遅れると骨折の場合は偽関節という状態になり、また腱断裂などの場合は受傷後比較的早期であれば腱縫合が可能であっても、時間が経過してしまうと縫合できなくなってしまい、さらに治療(腱移行や腱移植など)が必要になる場合があるので注意が必要です。 |
② | 一般的に刃物で切ったような切創は、転倒や机の角でぶつけて皮膚が鈍的にダメージを受け、裂けるように生じた裂挫創に比べて、創縁が痛んでおらず比較的綺麗に治ります。反対に創縁が痛んでいる裂挫創やプレス機などで挟まれて受傷した圧挫創などでは、傷痕は綺麗に治るのは難しいです。
この損傷の程度は次の③の項目の血流とも多いに関連があります。また縫合の基本は 表皮・真皮・脂肪組織・筋肉という層同士を合わせて縫う ことです。そのため脂肪層まで達するような深い傷では皮膚のみでなく、皮下・真皮も縫合しないと傷は綺麗には治りません。 |
③ | 傷が治癒するのには血流は必須です。縫合により創縁を丁寧に合わせることはできますが、創縁がしっかりとくっつくかどうかは血流にかかっています。縫合を行い糸で縛った部分の組織は、血の巡りが悪くなり血流は悪くなります。また組織の損傷が強いと血流も悪くなります。そのため創縁の損傷が強い裂挫創ではあまり細かく縫合すると、血流が悪くなり創縁が壊死して傷が開いてしまうことがあります。 分かりやすい症例に“弁状層”があります。弁状層とは外傷等で弁状に皮膚・皮下組織が剥脱してめくれ上がっている傷で、皮膚の大部分が深部と引きちぎれているため血流がとても悪い状態であり、皮膚が薄い高齢者で特に生じやすいです。このような場合は必要最低限の箇所のみ縫合を行い、極力血流を妨げないように処置を行います。 傷を綺麗に縫う=細い糸で細かく縫うということではありません。血流がとても悪い傷を多くの糸で細かく縫合されている場合があります。さらに血流が悪くなり皮膚が壊死し、潰瘍になってしまう場合があるので注意が必要です。 |
④ | 感染のリスクは、受傷後から縫合までの時間が長くなればなるほど上がっていきます。また部位、損傷の程度によっても感染する確率は異なっており、顔面や頭部は感染しにくい部位ですが、手足などとても感染しやすい部位です。受傷から時間が経過している際の、損傷が強い手足の傷の縫合は感染の可能性を念頭において治療をすすめる必要があります。
また“湿潤療法”という言葉が誤って理解され、どのような傷にも創面を湿った状態に保つ創傷被覆剤や市販の某◯◯パッドやテープのようなものをケガした直後から貼っている方がいらっしゃいます。被覆剤を剥がすと傷口が浸出液でベドベドになって悪臭がしており、感染を起こしているケースもあります。受傷直後の浸出液や出血の多い状態で、そのような被覆剤を貼ることは、傷が綺麗に治るどころか過度に創部が浸軟して(ふやけて)感染を引き起こしかねません。 このように縫合とは、傷の状態や部位によって異なるため症状に合った判断が必要です。 |